八 尺 様 wiki。 八咫鏡

この時の趣、藪のあるやうな 野外 ( のはず )れの小路のしかも闇の中に小提灯をさげて居る自分、小提灯の中に小石を入れて居る佳人、余は病床に苦悶して居る今日に至るまで忘れる事の出来ないのはこの時の趣である。 着物の 地合 ( じあい )につきていへば 縮緬 ( ちりめん )の如きは月並なり。 (六月二十日) 小生はかつて 瀕死 ( ひんし )の境にあり肉体の煩悶困頓を免れざりしも右第二の工夫によりて精神の安静を得たりこれ小生の宗教的救済なりき知らず貴君の苦痛を救済し得るや否を敢て問ふ病間あらば 乞 ( こ )ふ一考あれ (以下略) この親切なるかつ 明鬯 ( めいちょう )平易なる手紙は甚だ余の心を 獲 ( え )たものであつて、余の考も殆どこの手紙の中に 尽 ( つ )きて居る。

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余は実にかやうな 境界 ( きょうがい )に陥つて居るのである。 山水などの完全したる画には何も文字などは書かぬ方が善いので、完全した上に更に 蛇足 ( だそく )の画賛を添へるのが心得ぬ事である。 ドンコ釣りはシノベ竹に短き糸をつけ 蚯蚓 ( みみず )を餌にして、ドンコの鼻先につきつけること。

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呉春 ( ごしゅん )はしやれたり、 応挙 ( おうきょ )は真面目なり、余は応挙の真面目なるを愛す。 第三に脚本の上についていふと、能では 詞 ( ことば )よりもむしろ 節 ( ふし )の部分が多くて、その節の部分は 地 ( じ )と地でないのとの二種類になつて居る。

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一家の 団欒 ( だんらん )といふ事は、普通に食事の時を利用してやるのが簡便な法であるが、それさへも行はれて居らぬ家庭が少くはない。 甚だ気合くそがわるくて堪らんので、また 石竹 ( せきちく )を一輪画いた。 茂枝子ちよと内に帰りしがややありて来り、手飼のカナリヤの昨日も卵産み今朝も卵産みしに今 俄 ( にわか )に様子悪く巣の外に出て身動きもせず如何にすべきとて泣き惑ふ。

さうしてこれらの家元がおのおの 跋扈 ( ばっこ )して自分の流儀に 勿体 ( もったい )を附け、容易に他人には流儀の 奥秘 ( おうひ )を伝授せぬなどといふ事に成つて居る。

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むやみやたらに木ばかり植ゑてちよつと散歩するにも鼻を 衝 ( つ )くやうな窮屈な感じをさせるが公園の目的でもあるまい。 京極 ( きょうごく )や 夜店に出づる 紙帳売 ( しちょううり ) といふが碧梧桐の選に入つて居つた。

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御写真の 趣 ( おもむき )にては、葉のある樹に限りたるやうに見受申候。 座敷の掛額は 不折 ( ふせつ )筆の水彩画、富士五合目の景なり。 その窓の横には「やもり」が 一疋 ( いっぴき )這ふて居る。

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我々の家族は生れてから田舎に生活した者であつて、勿論教育 抔 ( など )は受けた事がない。

その入口の両側には 蓆 ( むしろ )が敷いて麦か何かが干してある。 また盆栽を飾りたる場所も必ずしも後ろに 屏風 ( びょうぶ )を立てて盆栽ばかり見ゆるやうに置きたるにも限り申間敷、あるいは床の間に飾りたる処を写し、あるいは机の上に置きたる処を写し、あるいは 手水鉢 ( ちょうずばち )の側に置きたる処をも写し、あるいは盆栽棚に並べたる処をも写し、あるいは種々の道具に配合したる処をも写し、色々に写しやうは可有之と存候。